ブックタイトル森林のたより 826号 2022年7月

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概要

森林のたより 826号 2022年7月

-高齢者、ミドリカミキリ-【第372回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira数年前から年金生活となった私。時間がある。好きな事が出来る。大喜びしたが、厳しい現実。体力、気力、根気がなくなる。前のように作業が出来ない。いらいらする。すぐにテレビのスイッチ。時々、今日は何月何日何曜日なのか、すぐに出てこない。ボケの始まり。心配になる。しかし、「俺もだ」と同級生。ほっとする。こんな日々の連続だ。それが令和4年5月9日。この日はすぐにわかった。私の79回目の誕生日だからだ。もう79か。あっという間だったなあーと複雑な気持ち。しかし、この日はいつものダラダラ生活とは違い、思い出に残る一日であった。これは神様からの誕生日プレゼント。そんな気がした。たまたまこの日は岐阜県林友会岐阜支部の役員会。3年ぶりの開催だ。コロナで中止されていたからである。まず驚いたのは故人となった方の多かったこと。「え!あの人が」「いつ、何処で。」こんな会話があちこちから聞こえてきた。会員はほとんどが70歳以上。しかも3年間分の死者数なのでいつもより多かったのである。このため、懇親会だけは毎年開くべきだという意見が多かった。会員はすべて高齢者なので、いつ何が起きるかわからないからだというのが理由だ。高齢者か。自分では若いつもりでも79だからなあー。またまた複雑な気持ちになった。これ以外の議題は異議なし、異議なしで。あっという間に終了。これはいつもの高齢者の会議であった。××××この後、本紙の発行責任者のS氏を訪ねた。「山のおじゃまむし(山虫)」は30年書き続けたので終わりにしたいとの相談だ。と言うより、私自身の気力の萎え。書き始めても集中できないし、根気がなくなったからである。するとS氏は、「書くべきですよ。それが貴方の生きがいでしょ」。そして「山虫を書かなくなれば腑抜け人間、ただの人ですよ」と言われた。この一言で目覚めた。そのとおりだ。確かに自分でも「これなら」という原稿が完成した時の喜びと爽快感。言葉では言い表せない。これがあるから書き続けたのだ。改めて思った。しかし、書く時の苦しみ。これもきつい。特に原稿のネタさがしに苦労する。私は原稿を書いても読んでもらえなければただの紙だと思っている。それで私が経験したことを書けば読者も興味を持つだろうと書いてきた。これを忘れていた。もう一度初心に戻って挑戦しよう。まず、気力の萎え。これを追い払わなければ。××××我が家の孫たちはトカゲ(カナヘビ)を飼っている。餌は生きている小さな昆虫やくもなど。これを捕えてきて与えるのが私。孫たちは観察して、その様子を話してくれる。「一番好きなのは細長い幼虫で、次はクモだよ」「嫌いなのはコガネムシやテントウムシ、カミキリムシだよ」「ミミズも食べていたよ」などいろいろ話してくれる。私の知らないことが多いので聞くのが楽しみだ。話してくれる孫たちの姿。心が和んでくる。だから餌とりはまったく苦にならない。喜んで出かけている。餌とりは三日おき。今日はその日だ。いつもの場所へ出かけた。しかし、いつものように採れない。捕虫網で草木をすくった。その時、きれいなカミキリムシが採れた。ミドリカミキリだった。大きさは3cm、細長い体。これならトカゲは食べるかも知れない。与えてみよう。一方では標本にしようとも思った。どちらにしようと迷ったが、トカゲの餌に。それはマニアの昆虫標本を引き受けるところがないので、高齢者の私が今更標本を増やす気にはならなかったのである。やはり79の私には高齢者という言葉が▲餌として与えたミドリカミキリ付きまとうようだ。××××帰宅したら、私に手紙が届いていた。高校で同じクラスだった女性のNYさんからであった。すぐに学生時代の顔が目に浮かんできた。ご主人と38年間開いていた薬局を閉局したとの案内であった。そんなに長く開いていたのか。ご苦労様と労をねぎらった。考えれば彼女も79才。高齢が原因だろうと思った。電話をかけた。「Yですがどちら様でしょうか。」上品な声が聞こえてきた。「同級生の野平ですが。」すると「なに!野平さん。久しぶりやなあー。元気かな。」と当時話していた飛騨弁の声。「薬局やめたんやって」「そうなんやさー。すぐに体がてきのうなるんで、無理なんやさあー。」この後も飛騨弁交じりの話しで盛り上がった。彼女とは同窓会で数回会っているが、どんな顔だったか思い出せない。それが、高校生時代の顔ははっきり覚えているのだ。色白で目のぱっちりした女学生。あの顔は忘れることができない。今思えば、私の初恋。そんな気がして笑えてくる。しかし、今はどんな顔なのか。おばあさんには間違いないが、想像できない。悲しい報告もあった。それはASさんが急死されたとのこと。しかも、ご主人を亡くし一人暮らしだったので、見つかったのは一週間後だったという。誰にも看取られることもなく天国へ向かった彼女。胸が痛んだ。これが今日一日の出来事。しかし、どれも高齢者がらみのことばかり。またまた複雑な気持ちになった。7 MORINOTAYORI