ブックタイトル森林のたより 827号 2022年8月

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概要

森林のたより 827号 2022年8月

-標本虫、ヒメマルカツオブシムシ-【第373回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira虫採りから、虫観察へ。それが今の私だ。じっくり見ているとその巧妙な知恵や生き方に驚き、感動することもある。この中から、その虫の話しを二つしよう。まず、ヒメマルカツオブシムシ。この虫は幼虫が毛織物や昆虫標本、動物のはく製などを加害するので標本虫と呼ばれている。しかし、大きさが3ミリ前後と小さいので、服が加害されても気付くことはほとんどない。しかも衣服の収納場所にはナフタリンなどの防虫剤が入っているので、侵入されても被害が進むことはない。これに対し昆虫標本。大きくてもカブトムシくらいなので、数匹に加害されただけで無残な姿になってしまう。しかも、1cmくらいの小型種になると1匹でもボロボロに食い尽くされてしまう。私自身、大事にしているゾウムシが何匹もやられ、悲惨な目に会っている。標本箱には防虫剤を入れるのが鉄則。マニアなら誰でも知っているが、忘れることがある。がっかりしているマニアの顔。何回見ただろう。思わず笑えてくるが私もそのマニアの一人、大笑いはできない。しかし、この虫は標本箱に侵入できても、限られた数しか成虫になることができない。それで、もっとたくさん卵を産める餌をさがしているのではないか。そんなことを思っている時、「あった!」と思わず声が出た。それは金魚の餌。今年の5月、大きな餌袋の中にこの虫が大発生していたのである。何万匹、いやそれ以上かも。とにかく多かった。粒状の餌は食われたものや、まだ幼虫のいるものもあった。無残に変わり果てていた。これを金魚に与えると虫ごと食べてしまった。成虫にも幼虫にも動物性の栄養分があるはずだ。ひょっとするとこの虫に食われた方が金魚にはプラスになるのではないか。そんな気がするのでしばらく観察していくつもりだ。××××これだけヒメマルカツオブシムシが大発生しているのだから、自分の標本は大丈夫だろうかと心配になってきた。しかし、防虫剤を入れたのは2年前だから大丈夫だろうと思いつつ、念のため数個の標本箱を調べた。加害された形跡はなかった。ところが、机の下に3個の標本箱があるのを思い出した。大きなオオクワガタなどが入っている大事な標本箱だ。しかし、防虫剤を入れた記憶はない。心配になり標本箱を取り出した。ショックだった。体から血の気が抜けていった。箱の中はヒメマルカツオブシムシの幼虫や成虫が動き回り、標本は写真のように無残な姿に変わり果てていた。2年間でこれだけ食い尽くす。まさに「標本虫」だとつくづく思った。××××次はコクゾウムシ。虫は餌が豊富ならばどんどん増えていく。私が飼っているコクゾウムシも、まさにこれだと思った。本紙で話したように3年前苦労して手にいれた27匹が増えて増えてものすごい数。その始末に困るほどになった。餌の米粒がたくさんあるからである。コクゾウムシは年1回発生するが、条件がよければ3回以上発生することもある。このように繁殖力が旺盛なコクゾウムシは江戸時代にも大発生していたのだろうか。ふと、思った。しかし、調べる気にはならなかった。それは、飼っているコクゾウムシがあまりにも増えたのでその世話に追われることと、私自身が前のような情熱が湧いてこないからである。それがある日、再びコクゾウムシに興味がわき、今までとは違った目で見るようになった。それはたまたまつけたテレビ。2万年続いた縄文時代の石器について放映していた。その中で、1万5千年前の地層からコクゾウムシが見つかっているとの説明があり、大写しにされた実物が映し出されたのである。××××驚いた。本当なのかと自分の目を疑った。現在いるコクゾウムシと全く同じなのである。この頃は米など栽培されていない。何を食べて生活をしていたのだろうと思った。その後、1万3千年前頃から米を栽培するようになったので、これを食べ始めたのではないか。しかし、栽培された米は今のような精米ではない。どのような時の米粒を食べたのだろう。次々といろいろな疑問がわいてくる。その後、さらに弥生時代と続き、コクゾウムシは生き続けている。私が日本史を知っているのは飛鳥時代以降の2千年くらい。だからコクゾウムシは10倍の2万年以上も生き続けているのだ。他の昆虫も同じだと思うが、それを実証する化石は出ていない。だからコクゾウムシは別格なのだ。しかも、現在自分が飼っているので、より親しみを感じてきた。それにしても3mm足らずの小さな虫が2万年も生き続けている。虫の生命力の強さを改めて感じた。7 MORINOTAYORI