ブックタイトル森林のたより 828号 2022年9月

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概要

森林のたより 828号 2022年9月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹トンビマイタケ205▲9月にブナの根元から発生したトンビマイタケ9月を代表するキノコにトンビマイタケがあります。トンビマイタケ(Meripilusgiganteus)は8月下旬~10月初旬に、ブナ老木の根元やその周辺、ブナの切り株から発生するサルノコシカケ科トンビマイタケ属の白色腐朽菌です。幼菌は小さな純白の塊で、太短い柄から扇状の大きな傘を何枚も張り出し、上下左右に重なった大きな株になるころには褐色になります。この成菌の姿をトビ(鳶)が翼を広げた姿に見立て、「トンビマイタケ」と呼ばれるようになったのです。ちなみに由来となったトビは、空高く飛ぶという意味の「とおくひいる」が転化して「飛び」になったとされ、既に奈良時代にはトビと呼ばれ、江戸時代にはトンビとも俗称されていました。トンビマイタケはトビタケ、ヤマドリの別名でも呼ばれ、他にも発生する時期が夏からであるためナツマイタケとか、夏暑く雨の少ない年ほど多く採れるため日照りキノコ、ブナから発生することが多いためブナマイタケとも呼ばれます。トンビマイタケは香りも味も良く、繊維質で硬くなる前の幼菌は珍重されます。しかし多くが奥山で採取されるため、持ち帰るまでに黒く変色することが多く、市場にはなかなか出回りません。外形はマイタケに似て柄部と傘部の区分けが不明確で、太短い柄の根元から半円形の大きな傘を数枚重ねて出します。肉質は弾力があり、成熟するにつれて硬くなる傾向があります。表面はほぼ平滑で同心円状の模様があり、裏面は白色で管孔が細かく、手で擦ると黒く変色します。触る以外にも調理でも黒変しますが、この変色することが見分けのポイントでもあります。近年ではブナのオガ粉にフスマ(麦の外皮)やトンビマイタケの種菌を混合し、短く切ったブナ丸太でサンドイッチしたものを土に埋め戻した人工栽培ものが出回っています。秋田では「茅の穂が出るころになると採れる」と言われ、山形県最上郡真室川町近辺ではお盆のご馳走とされてきました。鶏肉などとの相性が良く、醤油と唐辛子で味つけしたり、油いためにしたり、硬くなった成菌は味噌漬けにして酒のつまみとします。また乾燥したトンビマイタケは、秋田名物「きりたんぽ」の出汁として人気があります。よく似たものにミヤマトンビマイ属のミヤマトンビマイとオオミヤマトンビマイがありますが、前者は北海道や本州の亜高山帯の主に針葉樹に発生する褐色のキノコ、後者は本州以南の広葉樹林に発生する淡黄色~黄土色のキノコで、触っても変色しないため区別できます。MORINOTAYORI 4