ブックタイトル森林のたより 828号 2022年9月

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概要

森林のたより 828号 2022年9月

活かす知恵とを森林人116●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525県立森林文化アカデミーまでグリーンウッドワークを通して考える樹木の系統と生態岐阜県立森林文化アカデミー准教授●玉木一郎ぐん成長するので、道管が大きいのかもしれないと考えました。面白いのは、ムクロジ科はカエデ属のように細かい道管の散孔材が多いのですが、複葉のムクロジは大きめの道管が目立つ環孔材をしています(かといってムクロジが明るいところを好んだり、その成長もそれほど良いようにも思えませんが)。ただし、例外もいくつかあり、ムクロジ科のトチノキやミカン科のサンショウ属は複葉でも小さな道管をしています。これらの樹種では、複葉であるということよりも系統の制約の方が強く影響しているのかもしれません。【果樹は緻密な材】果樹は緻密な材(適度な硬さの散孔材)でカトラリーに向いていると言われますが、果樹でひとまとめにするよりは、果樹として用いられる樹種の系統の特徴で考えたほうが適切なように思います。果樹というと、主にはミカン科やバラ科の樹種、カキノキになり、これらはいずれも適度な硬さの散孔材のため、果樹=緻密な材ということになっているのだと思います(カキノキは道管が大きめだが、その割に緻密)。今回は、これまでに木を削りながら漠然と考えていたことや、同僚の植物生態学の柳沢先生や木工の久津輪先生と話していたことを文字にする良い機会となりました。もちろん、納得していただけることも、いただけないこともあるかと思います。私はメジャからマイナまで様々な樹種の材を削っていますので、同好の士の方が森林文化アカデミーにいらした際には、ぜひともこれらの違いについて語り合いましょう。2019年に本学で開催された「さじフェス2019」がきっかけで、グリーンウッドワーク、特にスプーンカービングにはまり、それ以来ほぼ毎日、斧やナイフで木を削る生活が続いています。製作したスプーンの数は500本を、削ったことのある樹種数は140を超えました。これまでは、立ち木の同定はできても材の同定はできなかったのですが、流石に普段から様々な樹種の材に触れていると、樹種差や個体差もだんだん分かるようになってきました。はずかしながら私が学生の頃は、柾目と板目の違いを何度聞いても理解できないレベルでしたが、今では「好きこそものの上手なれ」という言葉を実感しています。私の専門は森林生態学や森林遺伝学です。もう少し噛み砕いて説明すると、樹木がどのように進化してきて、どのように自然の中で生活しているのかを明らかにすることです。ですので、木を削っているときには、系統(科や属)や生態と、木目や材の色、硬さなどをついつい関連付けて考えてしまいます。基本的には系統の制約があるのですが(進化的に近いものにはそもそも共通する部分があるということ)、それを超えて生態が似たものには、共通する性質があるように思えます。ここからの話は、何かしらのデータに基づく科学的なものではなく、私の経験に基づく話で大変恐縮ですが、これまでに気付いたことをいくつか紹介したいと思います。【低木は硬い?】例えば、低木には割と硬い材のものが多いように思います。具体的にはマルバハギやトウコマツナギといったマメ科の低木や、アオキ、ノリウツギ、クスノキ科のクロモジ属はとても硬い材を持っています。マメ科はもともとハリエンジュのように硬いものもありますが、ネムノキのように軟らかい樹種もあります。一方、マルバハギやトウコマツナギはハリエンジュと比べても、かなりの硬さです。低木は高木に比べ、枝と幹の太さの差が小さく、その結果高木に比べ、枝に対して幹が相対的に細くなるため、材の強度が大きいのかもしれません。【ヤマハゼとヤマウルシの違い】ウルシ属は黄色い心材を持つという特徴があります。私の生活圏ではヤマハゼとヤマウルシが多く、いずれも黄色い心材とクリーム色の辺材が対象的でとても美しいため、これら2種の材は何度も削りました。いくつかの個体を見比べているうちに、ヤマハゼの方が黄色みが鮮やかであることと、心材の量が少ないことに気付きました。前者の理由はわかりませんが、後者の理由は、同じような太さの木でもヤマハゼの方が年輪が粗く、ヤマウルシの方が細かいことと関係があるように思います。心材は時間とともに形成されるので、年輪が粗い個体ほど、心材が少なくなることが考えられるからです。同じくらいの太さの木でも、ヤマウルシの方が年輪が細かいのは、もしかしたら(先駆樹種ではあるものの)ヤマウルシの方が耐陰性が少し高くて、暗い環境でも枯れずに少しずつ太ることができるのかもしれません。【複葉の木は道管が大きい?】先述のウルシ属や近縁のヌルデ、モクセイ科のトネリコ属、マメ科、センダン、シンジュ、タラノキはいずれも複葉で、大きな道管が目立つ材をしています。複葉の樹種は明るい環境を好むものが多く、そのような樹種は水をたくさん吸い上げてぐん写真1トウコマツナギ(左)とノリウツギ(中央)、ヤマコウバシ(右)写真2ヤマウルシ(左)とヤマハゼ(右)写真3カキノキ(左)とレモン(右)9 MORINOTAYORI