ブックタイトル森林のたより 829号 2022年10月

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概要

森林のたより 829号 2022年10月

-石川県にはいないのか、クマゼミ-【第375回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira一緒に暮らしている孫のY君が中学生になった。これで我が家の生活が大きく変わった。毎年出かけていた家族旅行や海水浴、山登りに出かけるのが難しくなったのである。それはY君の部活と塾通い。これで時間をとられるのである。部活はバスケット部へ入った。父親が地元でバスケをしているので、その影響を受けたのであろう。部活と言っても中学生だ。大したことないだろうと思っていた私。それが違った。連日練習で、休日に出ていくこともある。試合があれば選手でなくても応援に行かなければならない。しかも試合は夜が多いので、親が送迎しなければならない。母親は選手でないのだから、欠席したらと言う。しかしY君は、試合を見ているうちにいろいろな技術が覚えられるのでいやだという。普段も時間があれば空き地でドリブルの練習。バスケはY君の生きがい。そんなことを思ってしまう。それと塾。これも大変だ。週に土日を含め4~5日。昼はバスケで夜は塾通いだから大変だと思う。塾では厳しい先生のもとでの勉強だ。聞くところによると多くの生徒は塾通いをしているというから驚いてしまう。しかし、Y君は親に叱られて塾へ向かうこともあるので、バスケとはちがうようだ。××××夏休みになった。しかし、家族旅行は無理だと諦めていた。ところがバスケの県大会が高山市になったので、1年生は行かなくてもよいとの連絡。その日は7月30日。たまたまこの日は家族全員予定なし。神様からのプレゼントだと娘夫婦は旅行計画を立てた。行き先は能登半島。前から行きたいと思っていたところらしい。しかし、安い民宿はどこも満員。結局、和倉温泉のホテルに予約した。その日が来た。朝6時に東海北陸自動車道で石川県へ向かった。私は同乗しているだけなので、ほとんどうつらうつら。4時間後石川県の千里浜に着いた。ここは8キロに及ぶ砂浜で、しかも海が青色に輝き、きれいであった。ここを1時間ほど歩いた。途中から孫たちは靴のまま海に入ってびしゃびしゃ。浜辺では海水浴やバーベキューをしている人が多い。この光景を見ながら海岸沿いのドライブコースを北上して巌門へ向かった。ここは海に突き出た岩盤が何か所もある観光地で、この日も多くの人が来ていた。ここで、遊覧船に乗り近くから岩盤を見て、自然歩道を散策した。遊歩道から眺める海もきれいであった。歩いているとセミの鳴き声が聞こえてきた。アブラゼミ、ニイニイゼミのほか時々ミンミンゼミの甲高い音が耳に入ってきた。セミの声を聞きながら歩いている時、ふと思った。あのけたたましいクマゼミの鳴き声が聞こえてこないのである。××××不思議だった。いくら耳を澄ましてもクマゼミの鳴き声は聞こえてこないのである。このことが気になり、行く先々でクマゼミを探した。しかしどこにもいなかった。翌日、和倉温泉から金沢市の兼六園へ向かった。途中、3か所の景勝地へ寄ったがここでも鳴き声はなし。兼六園へ着いた。園内には樹齢数百年の大木。その大きさに圧倒されてしまう。ここでも数種のセミの鳴き声が聞こえてきた。しかし、クマゼミの声は聞こえない。これは石川県にクマゼミが侵入していないのだと思った。岐阜県でクマゼミが鳴きだしたのは30年くらい前。それまでは県南部の暖かい地域に生息していただけ。それが徐々に増え、▲庭で見つかった抜け殻今では北部の郡上や益田地方まで広く分布している。このことから、石川県は冬は寒いし雪も多く気象が厳しいので、クマゼミは侵入できないのだと思った。今年の旅行は人混みを避け、歩いて散策した。コロナが怖かったからである。歩き始めると孫たちが競って前へ前へと進む。それが速い。ついていくのがやっとだった。そのうちに孫たちが「おじいちゃん、ここで休んでいて」。このやさしい声に心が和んだが、「やはり後期高齢者か」と侘しくなってきた。××××孫たちが喜んだのはホテルの娯楽室。いろいろなものがあったが、どれも無料だ。中でも孫たちが夢中になったのがカラオケ。まず3年生のYAちゃんが歌いだした。驚いた。聞いたことのない曲を踊りながら歌うのである。他の孫たちも同じであった。どれも今はやっている踊りながら歌っているグループの歌だという。代わる代わる歌って楽しんでいた。結局、ホテルを出たのは11時であった。帰宅したのは午後9時。楽しい家族旅行であった。翌日、近くの公園ではクマゼミが大合唱。我が家の庭でも2匹が鳴きだした。近くの花木の葉にクマゼミの抜け殻があった。この植物の根を食べて育ったとしか考えられない。クマゼミは増えすぎてこんな狭い庭まで来て卵を産む。可哀そうに思えてきた。でもクマゼミが自然界を生き抜こうとする力はたくましい。そのうちに石川県へも侵入して、けたたましい声で鳴きだすだろうと思った。7 MORINOTAYORI