ブックタイトル森林のたより 830号 2022年11月

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概要

森林のたより 830号 2022年11月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ツルウメモドキ207▲鮮やかな果実を見せるツルウメモドキ飛騨川沿いに高山市を目指す途中、待避所の脇で美しい果実をつけたツルウメモドキを見つけました。ツルウメモドキ(Celastrusorbiculatus)は日本全国に分布するニシキギ科ツルウメモドキ属の蔓性落葉木本です。互生する葉は長さ約5~10cmの倒卵形~楕円形で、5~6月に葉腋に短い集散花序を出して黄緑色の花を咲かせる雌雄異株です。蔓は灰褐色で長く伸びてほかの植物に絡みつき、10~12月には黄色に熟した直径7~8mmの果実(朔果)が3つに割れ、中から橙赤色の仮種皮に包まれた種子が顔を出し、この彩りが美しいため盆栽に仕立てたり、生け花やリース材料にも利用されたりします。フラワーショップなどで早い時期から店頭に並ぶものは、果実がまだ青いうちに採取して、表面を火であぶって強制的に皮を裂かせたものです。季節どおりならば10月下旬~11月に熟すため、俳諧では秋の季語に「ツルウメモドキ」または「ツルモドキ」として使われます。ツルウメモドキの和名は、蔓性のウメモドキ(Ilex serrata)を意味しますが、属名のCelastrusは古代ギリシャ語の「Celastros(常緑のセイヨウキヅタ)」、種小名のorbiculatusは「円形の」という意味です。ちなみに英語ではOrientalbitter-sweetとか、Asian bittersweetと呼ばれます。熟した果実は少し甘いのですが、蔓を齧ってみても苦さも甘さも感じませんでした。ツルウメモドキの利用で特徴的なのは繊維利用です。アイヌ民族の伝統的織物「アットゥシ(厚司)」には、オヒョウやハルニレ、シナノキなどとともにツルウメモドキの樹皮繊維が使われ、ツルウメモドキは植物の内皮繊維を意味する「ハイ」と、蔓を意味する「プンカル」から、「ハイプンカル」と呼ばれていました。繊維はシナノキの内皮よりも白く強靱なため、荷負縄や弓の弦、女性の下帯、メカジキ漁の銛を結ぶ紐などにも利用されました。冬に蔓を採取して縦に半分に割り、採った内皮のみを熱湯に数分間漬けて濃い緑色になったら、雪の上で2週間ほど晒して白くし、細く裂いてから撚って地機(じばた)で布に織り上げます。近年、河川沿いや山のツルウメモドキは、河川改修工事や人工造林によって減少していますが、山口県防府市にはクロガネモチの巨樹に巻き付いた見事な「麻生のツルウメモドキ(天然記念物)」が見られます。川沿いのツルウメモドキを前に、こうした大きな株がいつまで残してもらえるか不安を感じながら飛騨川の上流に向かったのです。MORINOTAYORI 6