ブックタイトル森林のたより 830号 2022年11月

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概要

森林のたより 830号 2022年11月

-なぜあの時だけ大群で、ヤブ蚊-【第376回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira私の目標は週4日以上の散歩。もう10数年続けている。足腰を鍛えるためだ。目標は一日1万歩。当初は自宅近くを歩いていた。ある日、同級生にこのことを話すと、彼は言った。「平坦な道ばかりでは運動にならない。山道も歩かなければ駄目だ」。それで近くの伊木山(標高173m)も歩くことにした。軽い足取りで歩けた。これを続けているうちに75才になった。ところがこの頃から伊木山を歩くのがきつくなってきた。そこで無理をせずにゆっくり歩くようにした。しかし、時間が1時間半以上かかるようになった。しかも同じ道を歩いているので飽きてくる。そこでラジオを聞きながら歩き始めた。これが正解。楽しい山歩きとなったのである。しかし、今年の夏はすごく暑かったので、自宅周辺を歩いた。それが9月11日、久しぶりに伊木山を歩いた。少し涼しくなってきたからである。歩き始めたら小さな虫が目の前に現れ飛び回った。すぐに顔や腕に止まる。叩き殺すとそこには赤い血。ヤブ蚊と呼ばれている蚊が襲ってきたのである。その数がすごい。数えてみた。片腕に10数匹。20匹以上の時もあった。これが両腕と顔。次々と襲ってくるのだ。蚊と闘いながらの山歩きとなった。蚊の攻撃は登山口から頂上まで続いた。腕はブクブクに膨れ、血で赤くなっている。こんなことは初めてであった。上りはラジオを聞く余裕がなかったので、スイッチを入れた。連日新聞、テレビで報道されている、保育園の園児がバスの中で置き去りにされ熱中症で死亡したことを話していた。園児は水筒を空にし、衣服を脱ぎ棄てて倒れていたという。むごい話だ。この姿を想像すると胸が詰まり、涙が出てきた。少し下ると再び蚊が攻撃してきた。これをたたき殺す。この繰り返しだ。その時バスの中で死亡した園児が目に浮かんできた。苦しかっただろう。これに比べ蚊に襲われたくらいで大騒ぎしている自分。みじめというか情けなくなり、むきになって蚊を殺さないようにした。登山口に着いた。蚊はいなくなった。しかし、腕は血で染まり真っ赤っか。しかもすごく痒い。どれくらいの蚊に刺されたのだろうと思った。××××持ち帰った蚊を調べた。ヒトスジシマカであった。ヤブ蚊と呼ばれている蚊である。体が黒と白の模様になっているのでよくわかる。我が家にも蚊はたくさんいる。庭で草引きをすれば襲ってくるし、夜になると家の中で「ブーン」と音をたてて刺しに来る。しかし、ヒトスジシマカとは体の模様が違う。アカイエカであった。我が家にいるのはこの蚊だけでヒトスジシマカはいなかった。両種とも大きさは5mm前後。卵から成虫になるのは10数日。これが年中活動しているが暑い夏場に多い。血を吸うのはメスだけ。丈夫な卵を産むための栄養源だからである。私は何十年も虫採りに出かけているが、こんなに沢山のヤブ蚊に刺されたことがない。なぜ、あの日だけ多かったのか。このことが気になってきた。××××そこで、2日後同じコースを歩いた。天候などの条件はほぼ同じであった。ところがこの日は少ない。数匹集まるだけなのである。「飛んで来い、飛んで来い。ヤブ蚊たちよ」。こんな唄を口にしているうちに頂上に着いた。2日前にあれだけいた蚊はどこへ消えてしまったのか。頭がもやもやしたまま頂上を後にした。下りも同じで、腕は痒くも痛くもなかった。登山口へ着いた。しかし、なぜ今日は少なかったのか。このことが気になったので、近くにある神社の山林など3か所を調べた。ヤブ蚊はどこにもいたが、ほとんどがヒトスジシマカ。時々アカイエカがいた。しかし、数は少ない。なぜあの日だけあんなに多かったのか。この謎は深まるばかりだ。××××庭で草引きをすると、すぐに蚊が飛んできて顔を攻撃する。これがうっとうしい。ところが女房はほとんど刺されないという。「なぜ俺だけが襲われるのだろう」。「お酒の飲みすぎよ。晩酌を止めたら」と女房。「蚊に食われても酒は止めないよ」と答える自分。その後、「もしや本当では」。そんな気がした。故某大学の博士が「呑み助には蚊が集まる。大酒飲みほど大群が押しかける」と口にしていたことを思い出したからである。庭には水鉢、バケツ、瓶、缶などがあり、水の溜まっている容器には幼虫(ボウフラ)がいた。蚊は卵からわずか10日間で成虫になる。これが次々と卵を産んでいくのだから、蚊がいるのは当然だと思った。しかし、数は少ない。なぜあの日だけあんなに多かったのだろう。またまたこの謎へ。顔や腕に群がるヤブ蚊たち。追い払っても次々と襲ってくる。うっとうしく腹が立った。このことを思い出している時、園児が「おじさん。ヤブ蚊の大群なんかたいしたことないよ。刺されるだけだから。私はバスの中で暑くて暑くて本当に苦しかったんだよ」と言っているような気がしてきた。7 MORINOTAYORI