ブックタイトル森林のたより 831号 2022年12月

ページ
8/20

このページは 森林のたより 831号 2022年12月 の電子ブックに掲載されている8ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 831号 2022年12月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹花もち208お正月様を迎える風物詩の一つ「花餅、餅花」、お正月に生花が手に入り難かった昔、晴れの日を飾る一つが花餅でした。その始まりは養蚕農家で小枝についた繭玉を正月飾りにしたとか、鏡餅を八百万(やおよろず)の神と万物に供える代わりに、小さな餅を小枝に沢山つけたとか言われています。昔の花餅づくりは花餅株と呼ばれる切り株を探す事から始まりますが、樹種はネジキ(飛騨ではカスウスギ、ネギなどと呼ばれます)、ヤマモミジ、エゴノキ、エノキ、クリ、ヤナギなどを用いました。昔は餅を枝に繭玉のように丸めてつけ、梁や長押、壁に掛けるスタイルでしたが、いつしか床の間に置くスタイルが多くなりました。高山の朝市で尋ねると、高山で作られた花餅は毎年東宮御所に送られ宮中で飾られるとのこと。また「雛祭り」には枝から餅をはがし、一昼夜水に浸してホコリを落としてから、油で揚げて雛あられ(花餅あられ)にした時代もあったそうです。餅は日本では古くから、穀物の霊魂を形にすることができる食べ物とされ、餅を搗いて食べると人間の霊魂が再生されると考えられていました。伊勢神宮など各神社で大祭に供えられる「神饌餅」は円盤形の餅を重ねたもので、これが民間に伝わり正月に神に供える「鏡餅」になったのです。神が宿ると信じられていた銅鏡に見立てて、丸くした餅を鏡餅と呼んだのです。「鏡」は「鑑みる」、つまり良い手本や規範に照らして考えるという意味の言葉にあやかり「かんがみもち」とも呼んだそうです。多くの日本人は粘性の高い餅を好む人が多いですが、これは照葉樹林文化に共通する特徴とされます。一般にうるち米はアミロース2割、アミロペクチン8割とされますが、もち米は全てアミロペクチンとされます。国立民族学博物館名誉教授だった故佐々木高明先生によると、こうしたもち種の作物を大量に栽培する慣行は世界的に照葉樹林帯以外では見られず、タイ北部、ラオス、ベトナムなどの東南アジア北部、中国華南省・江南省、台湾、日本で特に好まれるそうです。またこの地域は、漆を使い、お茶や麹酒を好むのも同じだそうです。照葉樹林の民は、米だけでなくアワやキビ、モロコシ、トウモロコシのモチ種まで選抜し育ててきた歴史があります。同じ米を食してもインディカ米を主食とするインドでは、もち米は好まれないのだそうです。餅は照葉樹林文化圏に共通する祝いの食であり、人と神を仲介する食物として、一年間の幸せを願う「晴れの日」に神前に捧げた餅を分けて食べる事で、神の祝福を受けようとする文化の名残なのです。▲美濃市の今井家住宅に飾られた花餅MORINOTAYORI 8