ブックタイトル森林のたより 832号 2023年1月

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概要

森林のたより 832号 2023年1月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹門松のタケ209年の初めの初詣。初詣が習慣化したのは明治時代中期頃とされ、そもそも一家の家長が大晦日の夜から元日の朝にかけて氏神の社に籠もる「年籠(としこ)もり」が由来とか、その年の歳徳神の方角に位置する社寺に詣でる「恵方詣り」が由来とかされます。そして初詣で必ず目にするのが「門松」です。古来日本では、「門」は母屋の前の庭や陽の当たる南の庭などを指し、そこに歳神が降臨するためのマツを植えていました。これは唐の時代の中国で、家の門の前に長寿を象徴するマツを飾ったことが起源とされ、平安時代の貴族は新年の「子の日」に、マツの稚樹を引いて家に持ち帰る「小松引き」を楽しんでいたそうです。京都など歴史を重んじる地域では、根の付いた小さなマツを和紙で包み水引を掛けた「根引きの松」を、現在でも玄関の両側に飾ります。門松を飾る習慣は中世末以来の洛中洛外図にも見られ、初期にはマツだけを飾るものでしたが、室町時代に現在のような門松の原形が確立しました。門松のつくり方は関東風と関西風の違いはありますが、「松は千歳を契り、竹は万代を契る」とされ、長寿を約束するマツと繁栄を約束するタケの例えから、必ずマツとタケが使われています。マツを飾る理由は、岩場ややせ地など過酷な条件でも育つ生命力、常磐松の言葉からわかるように常緑であること、「門松」や「神を待つ」の言葉に繋がることからとされます。またタケは毎年多くのタケノコを出し、驚くほど成長が早く、中空でありながら強靱でしなやか、そして冬でも青々と葉をつけるなど、様々な点で霊的な植物とされたからです。ところで岐阜県で見られる門松のタケの多くは、先端部分を斜めに切ったものですが、このタケの仕立て方には2つの形があります。1つは前述のように、先端部を斜めに切った「そぎ」と呼ばれる形、もう1つが節のところで真横に切った「寸胴(ずんどう)」で、元々は寸胴仕立てが主流でした。「そぎ」は徳川家康が三方ヶ原の戦い(1573年1月25日)で敗北した後、対戦相手の武田信玄に対して、タケを武田家になぞらえて「この次は武田の首を斬る」という念を込めたのが始まりとされます。ちなみに武田信玄を祭神とする武田神社の門松のタケは「寸胴」であり、甲府市などではタケのみを飾る門松も見られます。私たちの祖先は、木々の梢に神が降臨すると考え、そうした考えを基にして神社では御神木に注連縄を、歳神を迎える玄関口には門松を飾ってきたのです。▲寸胴仕立ての門松MORINOTAYORI 4