ブックタイトル森林のたより 833号 2023年2月

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概要

森林のたより 833号 2023年2月

-東海環状自動車道、スズカカンアオイ-【第379回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira東海環状自動車道。これは愛知県豊田市を起点とし、瀬戸市、岐阜市、大垣市、四日市市までの中京圏を放射線状で結ぶ環状道路である。これが完成すれば交通渋滞の緩和はもちろん、沿線地域の産業や観光がより繁栄するので、地域住民から期待されている道路でもある。工事はほとんど完成し、残っているのは岐阜県のわずかな区間である。現在、養老インターから県境までの工事が行われている。たまたま私はこの区間の工事によって自然環境へ及ぼす影響、特に貴重な野生動植物を保護する対策ついて検討する委員に任命された。私は昆虫部門。1回目の委員会は工事区間の説明を聞き、車で現地を回った。しかし、ほとんどが田畑や草地で、所々に民家が見られるだけ。この上に道路が出来るのだというから、すごい工事だと思った。ところが新型コロナの患者が急増し、集会などは控えよとのお達し。このため委員会は中止になった。しかし、環境調査は専門会社によって行われた。そして、令和4年12月1日。数年ぶりに検討委員会が開かれた。まず現地の工事現場へ出かけた。希少種の確認場所や移植場所などへ行き、調査会社から説明を受けるためだ。現地に着くなり驚いた。整備された橋梁工事が写真のようにかなり進んでいたからである。そこで責任者から希少種の確認場所や移植植物などの説明を受けた。××××説明を受けたのは1ハリヨの生息地とその生息状況、2鳥類のヒクイナへの影響、3ナガエミクリの移植状況の確認、4カギカズラの移植状況の確認、5スズカカンアオイの移植状況、5サシバ営巣地への影響であった。しかし、この工事は生息地の環境を直接崩すようなことはなく、どの分野とも問題になることはなかった。昆虫でもギフチョウの食草であるスズカカンアオイはすべて活着していた。今回はどの分野も問題なかったので、各委員ともほっとしたというのが本音であった。これは余談であるが、この日ほど自家用車の有難みを感じたことはなかった。と言うのは自宅から岐阜国道事務所までは50分ほど。それが公共交通機関で来てくださいとのこと。それで自宅を8時に出発。事務所へ着いたのが11時。3時間もかかったのである。帰りも同じで自宅着が21時。すごく疲れた。やはり車は手放せないと思った。しかし、そうはいかないのだ。家族から「歳だから免許を返納してよ」と再三言われているからである。さて、どうしよう。頭の痛い日々が続きそうだ。××××このような公共事業とは違い国や県などが指定するレッドデータブックの委員となると悩むことがある。忘れられないのが岐阜市のレッド種を決めた時のこと。当然ギフチョウが候補に挙がった。しかし選ばれなかった。岐阜市にはギフチョウがたくさんいるからである。すると市民から「なぜギフチョウが入っていないのか」と市役所へ抗議の電話。それで次の改定時に検討することにした。ご承知のとおり、ギフチョウは名和昆虫博物館の初代館長である名和靖氏が新種として発表した、岐阜市とゆかりの深いチョウである。これをレッド種にするには事前に現館長の了解が必要ではないかと言う人もいた。しかし、これが大きな壁。今の館長は例え国のレッドでも決めること自体に絶対反対だからである。市では何としても館長を説得してほしいと、私に連絡があった。館長と何回も話をした。館長はレッド種のお陰で虫遊びをする子供が少なくなっている。昆虫採集は悪いことだと言う親が多いからだという。これでは子供が可哀そうだと館長は子供たちを集めて、虫採りをしたり観察する勉強会を開いたりしているという。このほか館長の思いをいろいろ聞いた。そのうちに館長は素晴らしい人だと思うようになった。しかし、了解は得られない。これは信念を曲げないというより、強情で我が強いだけではないかとも思った。ところが、ある日館長から「レッドの件は了解するよ」。「まさか。夢では」と思った時、次の一言。「これはあなたの顔を立てただけ。しかし、私の信念はいつまでも変わることはないですから」。××××この委員会で鳥類部門のO氏といろいろ話をした。その時、彼の鳥に対する愛着と言うか熱意はすごいと思った。ここ数年は全国各地へ出かけ珍しい鳥を撮っているが、費用を安くするため自分の車に3~4人乗せて向かっていくというからすごい。しかも、運転はすべてO氏。今までに北海道から九州まで出かけているが、最近は佐渡島へ行ってきたという。今後は離れ小島へ出かけ、そのうちに外国へも行きたいと真剣な顔で言われた。私も全国各地へ採集に出かけているが、話にならない。スケールが違いすぎる。超ものすごい人だと思った。最後にこれも余談だが、私とO氏の共通点はともに酒をこよなく愛するというより呑み助。しかし、盃を交わしたことはない。それでコロナの規制が解けたら居酒屋で盃を交わしながら、ゆっくり話したいと思っている。9 MORINOTAYORI