ブックタイトル森林のたより 834号 2023年3月

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概要

森林のたより 834号 2023年3月

-よいアイデア、53年前の年賀状-【第380回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira私は版画の年賀状で、新年のあいさつをしている。ところが後期高齢者の仲間入りをしたころから、目が悪くなり、今年は版画が彫れなくなった。ショックだった。多くの方から「貴方の版画を楽しみにしている」との声が届いているからである。がっかりしている時、よいことを思いついた。前書きに次のことを記して、前の版画を利用することにしたのである。*********************あけましておめでとうございます。私の年賀状は版画。これを何年も続けている。ところがこれが出来なくなった。年とともに目が悪くなり、彫れなくなったのだ。急にさびしくなり、むなしくなった。それで昔の版画を利用することにした。今回は私のお気に入りの昭和44年のもの。もう53年前のものだ。当時は虫採りに夢中。飛騨の山々をかけずり回った。その光景が目に浮かぶ。また、アポロ11号が人類初の月面着陸に成功したのが大きなニュースになった。月日の経つのは早いとつくづく思う。今年もよろしくお願いします。*********************次に住所録の整理をした。驚いた。亡くなっている人が、いつもより多かったのである。これは昨年義母が亡くなり、年賀状を出していなかったからであろう。私が出した人は40~50歳台が数名で、あとはすべて60以上だ。改めて高齢者であることを痛感する。同時にますます天国へ旅立つ人が多くなるだろうとさびしくなった。この人たちは元気だろうか。どんな生活をしているのだろう。近況が知りたくなった。××××令和5年元旦。年賀状が届いた。128名からだった。賀状を読んでいくと、その人のことを思い出し懐かしくなった。特に後期高齢者の人は、ほとんどが病院通いの日々で、物忘れがひどくなり困っているという。私と同じではないかと安心する私。笑えてきた。一方、毎年近況を知らせていた人から来てないものもあった。しかし、賀状は戻ってきていない。届いているはずだ。どうしているのだろうかと心配になる。また、10数名の方からは、今回で賀状のやりとりは止めさせていただきま▲53年前の年賀状すとあった。時代がかわったのだなーとつくづく思う。元旦以降に届いた賀状もあった。その中の3名からは昔の賀状を利用するとは、良いアイデアだなと感心していた。また某氏は「あの版画は初めて見たよ。最近の版画よりよくできているよ」と褒めていた。考えれば53年前から賀状をやり取りしている人は同級生しかいない。と言うことはほとんどの人が昔の版画は見てないはずだ。これからもこのスタイルで行くことに決めた。××××賀状を読んでいると、「「山のおじゃまむし」を楽しみにしてます。いつまでも続けてください」というのが何通もあった。これを見て、「やはり続けなければ」と思った。と言うのは、年とともに気力が萎え「もう終わりにしよう」という気が起きてくるからである。しかし、こうした賀状を見ると元気が出てくる。もう少し続けようと心に決めた。また、かつての上司M氏の娘さんから「----父は昨年10月28日、92歳で永眠しました。毎年野平さんからの年賀状を楽しみにしておりましたので、すぐに父に供えました。-------」。M氏の娘さんは小さいころからよく知っている。その娘さんがわざわざ返事をくれた。この優しい心に胸が熱くなった。このほか版画の年賀状を保存しているという人が10数人いた。私の宝物だという人もいた。このことを知り、版画を彫れなくなったことが悔しいとまたまた思う。それと気になったのはM氏。高校の1年先輩で、部活は剣道部。これが縁で賀状のやり取りを始めた。卒業後は会うこともなく、賀状による挨拶だけだった。M氏の賀状は版画。これが素晴らしい。私も競って彫ったものだ。それが数年前から来なくなり、今年も届いていない。恐らくもう会うことはないだろう。考えればM氏とは50年以上にわたって、賀状だけのお付き合いだったことになる。賀状だけで50年!。人は信じないかも知れないが、これは事実なのだ。学生服を着たM氏の顔が目に浮かんできた。××××賀状の多くは昆虫関係者。言葉を変えれば虫気ちがい(虫きち)だ。若いころは珍しい虫をねらって日本各地へでかけた猛者が多い。筆者も同じで北海道から九州にかけ、捕虫網を振り回した。珍品も何種か採った。これを賀状で自慢しあう。これが刺激になり、元気が出てきた。ところが自慢話が少なくなった。昆虫類の研究もDNAや遺伝子に目が向けられているからである。高齢者はついていけない。それにかつての虫きちも、今では野山でなく病院通いだ。交わす言葉は高血圧、糖尿病、神経痛などの病気の話が多い。急に暗い気持ちになり、これが多くの虫きちがたどる道か。こんなことを思ってしまった。5 MORINOTAYORI