ブックタイトル森林のたより 835号 2023年4月

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概要

森林のたより 835号 2023年4月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹木炭Ⅲ212「川尻さん、鍛冶炭(かじずみ)って知っているかい」、飛騨市河合町で黒炭や鍛冶炭を焼いておられる佐々木弘美さんに聞かれました。佐々木さんには木材搬出の手橇や木馬でお世話になり、その際に出た木材も炭に焼かれており、炭の話になったのです。鍛冶炭とは簡単に言えば、消し炭のような柔らかい炭で、最近では少なくなった鍛冶屋さんが使用する炭です。一般的に私たちが思い浮かべる炭は、調理用や暖房用の炭ですが、武田信玄や豊臣秀吉、前田利政らも愛用した名刀「関の孫六(孫六兼元)」など、刀鍛冶にも鍛冶炭が必需品でした。木炭は酸化還元反応が大きく、不純物が少なく、吸着性が大きいという特性があり、この特性を利用した金属精錬法が「たたら吹き製鉄法」です。たたらでは砂鉄と木炭を炉にいれて燃焼させ、砂鉄を還元して鉄を精製します。木炭を還元剤に利用すると、不純物の少ない刃物鋼(銑鉄)が得られ、こうして得られた鉄は「木炭銑」とも呼ばれる世界に類を見ない独特な製法です。江戸時代に下原重仲が記した『鉄山必要記事(1784年)』には、「一に粉鉄(砂鉄)、二に木山、三に元釜土」と、たたら操業では木炭は砂鉄に次いで2番目に重要なものと記されています。また同書には、たたら炉で鉄を精錬するための木炭は「大炭」、鍛冶に用いる炭は「小炭」と記されています。つまり小炭とは鍛冶炭なのです。大炭にはマツやコウヤマキ、クリの大径木が良く、シデやコブシ、サクラは悪く、シイノキなどは最悪とされます。マツやクリの大木は大きな炭窯で、黒炭より低い温度で蒸し焼きにし、炭素が60%以下、揮発分30%以上という炭化が不十分な木炭に仕上げます。こうして仕上げた木炭は火力を上げるのに都合が良かったのです。一方、鍛冶用の小炭にはマツやクリ、スギが良く、シデやシイは良くないとされました。小炭の焼き方は地面を掘り込んだ凹地に木を積む伏せ焼きです。マツやクリの小炭はリン成分が0・02%以下と少ないため、特に刀剣類の鍛錬ではねばりが強く刃こぼれしないとされました。また小炭は軟質で燃焼速度が速く、高温になり易い反面、空気を止めると火が落ち着きやすい立ち消え性があるため管理し易いのです。余談ですが、747年に始まった奈良東大寺の大仏鋳造では、アマルガムから水銀を除去する目的と、銅を溶かす熱源として約800トンもの木炭が利用されたと推測されています。日常での木炭利用が疎遠な現代とは言え、木炭無くして日本の歴史は語れないのです。▲関鍛冶伝承館で日本刀鍛錬用の鍛冶炭をおこすMORINOTAYORI 6