ブックタイトル森林のたより 836号 2023年5月

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概要

森林のたより 836号 2023年5月

活かす知恵とを森林人124●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525県立森林文化アカデミーまで私たちの暮らしと身近な自然?人知れず消えていく生きものたち?岐阜県立森林文化アカデミー教授●津田格●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525県立森林文化アカデミーまでされています。ムネアカは侵入先で在来のハラビロと競合することが懸念されており、ムネアカが侵入した愛知県豊田市周辺では2、3年でほぼハラビロがいなくなり、ムネアカに置き換わってしまったとのことです。美濃市の周辺でもハラビロかと思って捕まえるとムネアカだったということが多くなっています。見つけるたびに駆除しているのですが、在来のハラビロが見られなくなってしまうのも時間の問題かもしれません。竹製品などの輸入が外来種の侵入経路になっていると考えられている例は他にもあります。タイワンタケクマバチというハチは名前の通り台湾から中国大陸に分布しているのですが、やはり近年国内各地で定着してしまっています。共生するダニの種類やDNA解析結果から、国内に入ってきたのは中国の系統であるとされています。直径2~3cmの竹に穴をあけてその中に営巣することから、中国から輸入される竹箒の柄や竹材に入って運ばれてきたのではないかと考えられています。またクビアカツヤカミキリやツヤハダゴマダラカミキリ、マツヘリカメムシなどの外来昆虫も近年各地で見つかっており、農林業への影響が懸念されています。これらも意図的に持ち込まれるようなものではないため、何らかの輸入資材について入ってきたものと思われます。生物は他の種やその場所の環境に様々に影響しあっているため、外来種の侵入が今後どう影響してくるのかは未知数です。かつては地域の自然資源から竹製品をはじめとするさまざまな日用品が作られてきました。なんでも簡単に手に入る便利な時代になりましたが、それと引き換えに自然資源の利用の文化も失われ、さらにハラビロのように在来種がひっそりと消えつつある場合もあります。非意図的な外来種の持ち込みを阻止する対策は重要ですが、私たちそれぞれが身近な自然に関心を持ち、かつて共に過ごした生きものに変化は起きていないか、気づくことも大切なことかもしれません。学生と話をしていて、小津安二郎監督の「父ありき」という映画を見に行ったことをふと思い出しました。その物語の中で成長した息子が信州で離れて暮らす父のもとに行き、並んで渓流釣りをするシーンがありました。川辺に並んで立つ二人の竿の上げ下ろしが同調し、お互いへの想いが伝わってくる印象的な場面だったのを覚えています。私は父と釣りをした記憶はないのですが、田舎に帰った際に祖父に連れられて近所のため池に釣りによく行きました。家の裏で伐った布袋竹を竿にし、それに簡単な仕掛けをつけ、ミミズを掘って餌にしていたのですが、夕方のまずめ時になるとギンブナやタモロコなどが面白いように釣れました。夏にはヒシの浮葉が水面を覆い尽くすため、釣りができるのは春からGW頃まででした。ヒバリの声を聴きながら陽のあたる池畔に座り、祖父と糸を垂らしていた情景は今でも記憶に残っています。時を経て大人になってからふと池に行ったところ、護岸は改修され、誰かが持ち込んだであろうブラックバスが群れ、ヒシなどの水草も見られなくなっていました。必要があって変化を余儀なくされたものもあるでしょうし、ずっと気にしていたからといってどうなるものでもなかったのかもしれません。しかし、失われたものへの思いが澱のように心の中に漂っています。身近な自然は人知れず、けれども想像以上のスピードで変わっています。開発などで失われるものも多く、それは目に見える形で捉えることができるでしょう。また前述したブラックバスのような外来種の侵入などもわかりやすい例のひとつだと思います。外来種はそこの環境にさまざまな影響を及ぼしますが、私も含め多くの人は普段そのことを気にも留めず暮らしています。しかし私たちの日常が外来種の定着につながり、知らないうちに在来種への脅威となっていることもあります。例えばカマキリの一種ハラビロカマキリ(以下ハラビロ)はそういう状況に直面している種のひとつです。ハラビロは身近な環境で見かけることも多く、子供の頃に捕まえた人もいると思います。ところが最近、よく似た別種のカマキリを見かけるようになってきました。一見普通のハラビロかと見過ごしがちですが、よく見ると一回り大きく、前脚の形態などが異なります。わかりやすい違いは胸部の裏側の色で、手にとってひっくり返してみると赤みを帯びています。日本で見つかり始めた当初は正体不明のカマキリとして研究者間で知られていましたが、今では中国大陸からの外来種であることが判明しており、前述した胸の色からムネアカハラビロカマキリ(以下ムネアカ)という和名で呼ばれています。このムネアカ、国内では2010年に福井県で生息が初めて報告され、その後、各地で見つかっています(その後実施された多摩森林科学園での標本と写真記録の調査によると、2000年に東京都にいたとされています)。侵入経路を調べた研究では、中国製の竹箒に使われる竹の枝に卵が産み付けられて日本に入り、その流通経路から各地に広がったのではないかと指摘ハラビロカマキリ(左)とムネアカハラビロカマキリ(右)の胸部の色の違い1111 MORINOTAYORI