ブックタイトル森林のたより 836号 2023年5月

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概要

森林のたより 836号 2023年5月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ハナイカダ213美濃加茂市の木曽川沿いで、葉の上に花を咲かせるハナイカダを見つけました。ハナイカダ(Helwingia japonica)は北海道の西南部、本州、四国、九州の丘陵帯から山地帯の湿ったところに好んで自生する落葉低木です。和名のハナイカダは、葉の上に花を咲かせ実を結ぶ様子を、木材を組んで川を下る筏(いかだ)と船頭に見立てた「花筏」が由来です。ハナイカダは5月頃、葉表の中央に淡緑色の小さな花を咲かせます。雌雄異株であるため、雄株は雄花を葉の中央に数個つけ、雌株は雌花を葉の中央に1~3個つけます。花が葉の中央に咲くのは、葉と花序の原基が発生初期から分離せず成長し、葉腋から出た花柄が葉の主脈と合着しているためです。葉がまだ小さいうちは、葉の先端に花蕾がついているように見えますが、葉の成長とともに中央に位置するようになります。雌株にできる果実は秋に黒く熟して甘味があり、小鳥が好んで食べます。ハナイカダの新芽は柔らかく、菜飯や汁の実、お浸し、炒め物、天ぷらとして好まれます。葉をゆでたり蒸したりすると、マツタケに似た香りがするため炊き込みご飯にもされます。地域によっては別名ママコ、ヨメノナミダ、ツツデ、オトコジンと呼ばれ、ママコとは「飯子、継子」と書き、若芽を菜飯やお浸しにするからとか、葉の上についた花や実を飯粒に見立てたためと言われます。ヨメノナミダとは「嫁の涙」と書き、これは殿様の使いから「葉に実のなる木を見つけてこい」と命じられた若嫁が、「夜遅くまで山中を探したが見つからず、思わず流した悔し涙が葉の上に落ち、月光に黒真珠のように輝いたものが果実になった」という説話に由来するそうです。ツツデは「突出」と書き、これは切った茎の中央部を細い棒で突くと、海綿状の髄が突き出されてくるためで、昔はこの髄組織を灯明の芯として利用しました。またオトコジンは「男芯」と書き、上記の棒で突くと中心部の海綿状髄が突き出ることを指しています。葉や果実は民間薬として下痢止めに、根は咳止めに用いました。中国では葉を青莢葉(せいきょうよう)、果実を葉上珠(ようじょうじゅ)と呼び、滋養や強壮、止血、下痢、健胃に用いた例があります。下痢止めに用いるには乾燥した葉を、煎じ煮詰めて服用したそうです。また、古い文献には、根系が解毒や消腫に効果があり、特にヘビの咬傷にも効くとありますが、これは信じないことが賢明でしょう。▲葉の上に花を咲かせたハナイカダMORINOTAYORI 6