ブックタイトル森林のたより 836号 2023年5月

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概要

森林のたより 836号 2023年5月

-毎日が日曜日、大谷翔平選手-【第382回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira後期高齢者の仲間入りをしてから5年。あと少しで80歳だ。今となるとあっという間にすぎた感じだ。当初は毎日が日曜日。好きなことが何でもできると喜んだものだ。ところが違った。体力の衰え。若いころは虫採りで野山を駆けまわったものだが、今はその元気がない。それと気力の萎え。あれだけ夢中になっていたゾウムシに情熱がわいてこない。自宅にあるたくさんのゾウムシ標本をどうするか。これで頭が痛いからである。次は病院通い。内科、外科、整形外科、眼科、歯科、皮膚科などのオンパレードだ。医者へ行けば薬が出る。これを飲む。しかも一日3回だからすごい量だ。こんなに飲むと、逆に体が悪くなるのではないかと思ってしまう。先生は「歩きなさい。頭を使いなさい」と言われる。しかし、散歩は10数年続けているし、昆虫学会誌、昆虫同好会誌などから情報を得たりしていることと、県や国の審査委員を引き受けているので、頭は回転していると思う。今後もこのペースで行くつもりだ。それより心配なのは酒だ。夕食時に飲む日本酒の味は格別だ。これが飲めなくなるとさびしい。それである日医者に「酒は体に悪いでしょうか」と尋ねた。すると先生は「飲みなさい。飲めるうちは青信号。飲めなくなったら赤信号だから病院へ」と言われた。しかし、その後に一言。「あなたは歳だからほどほどに」笑みを浮かべて言われた。それと物忘れ。これは痛切に感じる。相手の名前や数日前の出来事が思い出せないことはしょっちゅうある。また、女房からは電気の消し忘れ、道具をもとの場所に戻してないなどの小言を言われ続けている。このような日々を過ごしているうちに、私の月曜日から日曜日までのスケジュールがわかりかけてきた。しかし、毎日が日曜日には程遠いものであった。××××まず、私の一日の始まりは6時半に起きて、朝食時にNHKの連続テレビ小説を見ること。現在2本見ているが、これが楽しみ。しかし毎回いい場面で終わるので、次を早く見たい。そんな気にさせてしまう脚本家はすごいと思ってしまう。そのうちの一本が「舞い上がれ」。あと10回ほどで終了するが、結果はどうなるのか。今から楽しみである。その後は新聞や虫関係の本に目を通したり、標本整理など。午後は庭にいる虫を観察したりテレビやビデオをみたりし、15時頃から1時間半ほど散歩する。帰宅は17時近く。そして夕食。日本酒の熱燗で喉を潤す。××××しかし、こんな日は少ない。雑件が次々と入って来るからだ。無職の私はほとんど対応しているが、断ることもある。それは雨の降っていない日の散歩の時間。前から続けていることと、医者からも強く言われているからである。それに歩いているといろいろな昆虫に出会い、その行動に驚くことがあるからである。散歩コースでよく行くのが自衛隊基地近くにある広場。ここで休憩しながら基地へ帰るジェット機を見るのも楽しみの一つだ。大きな爆音とともに飛び去るジェット機。これが間近で見られるので迫力がある。ここにはカメラを手にした人が多い。ジェット機を撮る人たちだ。多いときは20人以上のときもある。ある日、大きなカメラを担いでいる70歳くらいの老人に話しかけた。「そのカメラいくらくらいですか」、「180万くらいかな」、「写真はどうされるのですか」、「何もしない。家に置いておくだけ」。なのにこの人は月に5回以上通っているという。「なぜ、そんなに」とさらに尋ねた。その人は「ジェット機に向かってシャッターを押す。パチパチパチパチ、パチパチパチパチと歯切れのいい音。これが何とも言えない快感。だから何回も来ているのだ」。私は笑いたくなったが、表情が真剣なのでその人にひと言。「すごいですね」。××××私の好きなスポーツは大相撲。開催中は毎日テレビの前に釘付けだ。しかし、散歩の時間と重なるので、場所中は午前に変更。ところがそれができない日があった。WBC(野球の世界一を決める大会)で日本は準決勝でメキシコ、決勝戦ではアメリカに勝ち世界一となったときである。試合はテレビで放映されたが、時間が8時から13時まで。たまたま大相撲大阪場所が開催中だったので、この二日間(3月20、21日)は散歩は止めて、テレビとにらめっことなった。WBCは日本が優勝。長年の悲願がかなったのである。これには投打の二刀流の使い手大谷翔平選手の活躍があったからだと、誰しも思うであろう。私もその一人だ。特に優勝が決まったあの瞬間は忘れられない。相手の4番バッターとの勝負だ。この打者を抑えれば優勝という場面で、空振りの三振に抑えた。その時の大谷選手の喜ぶ姿。帽子を投げ捨て大声をあげて走り回っていた。その姿は私を含め多くの人の脳裏に焼き付いているだろう。その時、ふと思った。この名勝負が見られたのは「毎日が日曜日だからだ」。7 MORINOTAYORI