ブックタイトル森林のたより 838号 2023年7月

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概要

森林のたより 838号 2023年7月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹オトギリソウ215不破郡関ケ原町の道端でオトギリソウを見つけました。オトギリソウ(Hypericumerectum)は日当たりの良い原野や山地に生える多年草です。草丈30~60cm、披針形で先が丸みを帯びた葉柄のない葉が、茎を抱くように対生しています。7月~10月には枝の先端に円錐花序をつけて黄色い花を咲かせ、日没時にはしぼんでしまいます。オトギリソウの花弁はプロペラのように5枚付き、多数の雄しべは基部で合着して3つの束になっており、雌しべは花柱が3つに分かれています。オトギリソウ属の葉は透かして見ると油点が観察できる特徴があり、この油点は透明な「明点」と不透明な「黒点」の2種類に分けられます。オトギリソウの黒点(褐色の油点)は濃赤色の色素ヒペリシン(hypericin)で、葉をアルコールに浸すと簡単に抽出できます。このヒペリシンは光作用性物質で、これを摂取した後に日光(紫外線)に当たると毒性が現われるという変った性質を持っており、皮膚炎や浮腫を生じます。オトギリソウを食べた牛や馬が太陽光線に当たると、強い皮膚炎を起こして脱毛する事例があり、マウスにオトギリソウを与えた実験では暗所で問題の無かったマウスが日光に当たると急に痙攣を起こして死んだ事例もあります。江戸時代の百科事典、寺島良安の『和漢三才図会』には、オトギリソウの名は平安時代、花山天皇の頃に名をはせた鷹匠の晴頼(せいらい)に由来すると記されています。その内容は、鷹の傷を治すことで有名であった晴頼は、使用する薬草の名を決して口外せず秘密にしていました。しかし弟がその薬草の名を、ある日他人に漏らしてしまったため、怒った晴頼が弟を斬り捨て、その恋人も後を追ったという言い伝えがあり、その時に弟の血潮が庭の薬草に飛び散って葉に跡が残ったとされ、「弟切草」と名付けられたとされます。またオトギリソウにはタンニンが多く含まれており、全草を乾燥させたものは生薬で小連翹(しょうれんぎょう)と呼ばれ、寺島良安もオトギリソウは切傷や腫物の妙薬であると記しています。筑波名物ガマの油売りの口上では、「さあさあ、お立ち会い止血の薬はござらぬか、…ガマの油か……オトギリソウ……」とうたわれます。小連翹は煎じたものを切り傷の止血薬や神経痛、リュウマチ、月経不順の鎮痛薬、うがい薬に。生葉を潰して打ち身や捻挫などに利用しました。道端に咲くオトギリソウを見つけたら、悲しい名の由来も思い出してやって欲しいのです。▲葉を透かすと黒点がはっきり見えるMORINOTAYORI 8