ブックタイトル森林のたより 838号 2023年7月

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概要

森林のたより 838号 2023年7月

-ジェット機が飛ばない、大型連休-【第384回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira今年も大型連休が始まる。長い人で9連休とれると喜んでいる人も多いようだ。しかし、私には関係ない。365連休というか、毎日が休日だからだ。一方、娘(次女、三女)たちは1か月前からそわそわしている。家族で旅行に出かけるので、その準備のためだ。大変なのだろう。よく電話がかかってきた。ある日女房に「自分たちもどこかへ出かけようか」と冗談交じりに話しかけた。「行きたくない」とそっけない返事。これが80に近い高齢者家族かと笑えてきた。思えば私も昔はこの連休が楽しみであった。虫採りができるからだ。捕虫網を手にして追いかけたものだ。これが何十年も続いた。そのお陰で貴重種を何種類も手にすることができた。標本を見ていると当時のことを思い出し懐かしくなる。しかし、最近は採集に行く気にならない。体力、特に脚力が衰えたのと、気力が萎えてきたからである。その私に三女から「家族で奥飛騨へキャンプ行くので一緒にどう」と話があった。テントを張って、バーベキューを食べて寝袋で寝るという。このキャンプに子供たちは大喜び。一緒に行きたかったが断った。それは今の時期まだ寒いし、この年になって寝袋で泊まる気にはならなかったからである。2日後、今度は次女から静岡県へドライブ旅行のお誘い。女房は「行く行く。連れてって」と喜んでいたが、私はこれも断った。人と車で混雑しているところへわざわざ出かける気にはならなかったからである。ということで今年の大型連休は私だけで過ごすことになった。××××5月3日。今日から私一人での生活だ。と言ってもいつもと変わらない。昼前は新聞を読んでテレビを見る。そして11時ころから2時間近く散歩に出かける。帰宅後は金魚、メダカの世話であっという間に終わってしまう。散歩でよく出かけるのが飛行場公園(以下、公園)。自衛隊のジェット機が爆音をたてて飛んでいるので、これを見ながら休憩するのだ。ここには大きなカメラを手にした人がたくさん来ている。ジェット機を撮るためだ。多いときは30人以上の時もある。迫力あるジェット機を撮るのが楽しいという。このマニアは県外からもたくさん来ている。遠方では宮城、東京、広島、高知県などから来ているから驚いてしまう。ところが5月3日。この日は一人いただけであった。私と同じように散歩の途中だという。その人は言った。「大型連休でどこも混雑しているというのに、この公園はしばらく閉店だね」。××××翌日も公園へ行った。ところが、いつも歩いている道なのに、今日はちょっと違う。どの家にも何台もの車が止まっているのである。「道を間違えたのでは」と思った。しかし、いや違う「これは大型連休で昨日の夜帰省したので、家でゆっくりしているのだ」と改めて思った。家の前の車が急に増える。これも大型連休だから見られる光景では。そんな気がした。この日は草地の多い場所を選んで歩いた。昆虫類を観察するためだ。よく目にしたのはモンシロチョウとベニシジミ。どこでも見られるので観察したことなどない。ところが観察し始めると面白い。あっという間に時間が過ぎてしまった。飛行場公園についた。高齢者が二人いた。グランドゴルフの練習中でクラブを振っていた。ここへはよく練習に来るという。しかし、ジェット機の飛ぶ日はカメラを手にした人がたくさんいるのでできない。だから大型連休は大歓迎だと喜んでみえた。喜ぶ人、そうでない人「人それぞれ」だと思った。5日、6日も出かけたが、二日間とも数人いただけだった。7日は朝から雨で散歩は中止。これが私の大型連休であったが、あっという間に終わってしまった。この夜、女房や娘家族が帰ってきた。皆楽しかったというから、よかった、よかった。××××連休が終わって2日後の9日は快晴だった。この日も公園へ向かった。カメラを手にして人が走り回っている。3日前とは大違いだ。これが本来の姿だと思った。ジェット機が爆音をたてて飛んでくる。豪快だ。いつ見ても迫力がある。一斉にパチパチパチパチとシャッターの音。いつ聞いても快い響きだ。つい長居をしてしまう。私はジェット機マニア。いやカメラを持たないジェット機ファンになってしまったと笑えてきた。連休のあとはいつもの生活。女房や娘から「あれやって、これやって。どこどこへ行ってきて」などと言われるので休んでいる暇などない。連休中の生活が懐かしくなる。そんな時の5月19日、孫のYIちゃんが「おじいちゃん、誕生日いつだった」と聞きに来た。「しまった」と思った。忘れていたのである。「5月9日だよ。80歳になったんだよ。でも過ぎちゃった。ごめんね」と謝った。その日は連休が過ぎた2日後で久しぶりにジェット機を見て興奮し、誕生日のことなど頭になかったのである。まさに80歳だと笑えてきた。9 MORINOTAYORI