ブックタイトル森林のたより 839号 2023年8月
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森林のたより 839号 2023年8月
―土になった、イタチ―【第385回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira80歳。ついに私もこの年を迎えた。昆虫との戯れは卒業し、今は虫以外の生き物に目が向いてしまう。これが楽しい。知らなかったことが次々出てくるからだ。今回は最近目にした話をしよう。まず、ツバメ。我が家にツバメが巣を作ったのは平成19年だから16年前。新築3年後の新しい家だ。そこにツバメが巣を作り始めたのだから家族は大喜び。しかも巣は玄関前の壁の内側。外からは見ることができない。ここだったら外敵に見つからないだろうと思った。毎日家族で観察した。巣の前で見ていても親鳥は餌を運ぶ。まるで家族の一員。そんな気がしたものだ。ところが新築10数年後に外構工事を行い、壁を塗り替えてしまった。この影響なのだろうか、ツバメが来なくなってしまった。さびしかった。それが数年前、ツバメが帰ってきて巣作りを始めた。嬉しかった。しかし、巣の場所が前とは違うのである。今までのツバメの子孫ではない。そんなことを思いながら、この子育てを見ていた。今の私は年金生活者。時間はたっぷりあるので、今年はじっくり観察した。朝、昼、夕方の3回見ることもあった。この心変わり。これが80歳なのだと笑えてきた。ヒナは4羽いた。親が来るとヒナは大きな口をあけて餌をねだる。餌は数羽で交互に運ぶが、夜は1羽だけが巣で泊まる。この繰り返し。それが6月1日、ツバメがいなくなった。巣立ちをしたようだ。しかし、巣の近くでは5、6羽のツバメが飛んでいる。ひょっとしたらこのツバメはこの巣で2回目の子育てをするのではないかと思った。というのは以前7月に卵を産んだことがあるからである。まだ、1か月以上ある。楽しみだ。××××次はスズメとカラスの話。我が家の庭にはスズメがよく集まる。餌を探しているのだろう。ある日孫のYちゃんが菓子の破片を与えた。すると何羽も集まってきた。これに興味がわきいろいろなものを与えて観察した。ある日「おじいちゃん、スズメは何でも食べるけど、何が一番好きだと思う」と聞いてきた。私はわからなかった。「トウモロコシだよ。喧嘩して取り合っているよ。」思いもしないこの事実。知らないことが沢山あると思った。そのうちにハトも来始めた。Yちゃんは「ハトは嫌い」と言って餌やリは止めてしまった。これを聞いた私は散歩コースで同じことを始めた。公園でパンの切れ端を与えた。すぐにカラスが集まってきた。しかし、近づくと逃げていく。そのうちに1羽だけが逃げないようになった。私を見ると近づいて来るのである。餌を与える。喜んで食べる。そのうちに何羽もカラスが集まる。こんな日が続いた。ある日、いつものように餌を与えていたら、大きな怒鳴り声。「カラスに困っているのだ。餌を拾ってすぐに帰れ。」かなり憤慨して見えた。同じ鳥でもツバメやスズメは喜ばれるのにカラスは嫌われる。複雑な気持ちになった。××××次はイタチ。今でもあの姿が目に浮かぶ。ある日帰宅途中に自宅近くの道路で人が集まっていた。動物が死んでいたのである。顔から血が出ていたので、車にひかれたらしい。イタチだった。私は孫に見せるため尻尾をつかんで車にいれた。すると見ていた人が「気味が悪い」、「野蛮な人」などと口にしていた。中には「美味しいですか。私も食べたいです」などと言う人もいた。孫たちは初めて見る動物なので興味津々。そのうちに素手で持つようになった。女房は旅行中だったのでこのことを知らせた。すると、私も見たいから捨てないでとのこと。二日後に帰ってきた。麻袋から取り出すと臭いというか異様な臭い。「気持ちが悪い。見たから早く処分して」と女房。近くの山へ捨てに行った。というより、このイタチがどのようになるのかを調べたかったからである。翌日、ものすごいハエ。それにいろいろな昆虫が集まっていた。それが10日後には骨だけになり、数日後にはこの骨もすっかりなくなっていた。しかし、この場所に小さなチョウが何匹も飛来して静止し死後直後ていた。こんな光景を見るのは初めてである。イタチの姿は消えても臭いは残っているのかと思った。同時に、野山には動物がたくさんいる。大きな熊や鹿でも死亡するとこのイタチのように消えていく。だからきれいな野山なのだ。死後15日後自然界の奥深さを感じた。××××私はこの原稿を40年以上書いているが、今回ほど精神的に追い詰められ悩んだのは初めてであった。その状況というか無念さを聞いていただきたい。実は原稿をほぼ書き上げたとき雷が落ち、コンピューターが故障。原稿が消失してしまったのである。ショックだった。原稿を書き直さなければならない。しかし、そんな気が起きないのである。事情を話して原稿提出日を延ばしてもらい、書き始めた。ところが書いた内容はわかっているのだが、どのような文章だったか思い出せないのである。苦労して苦労して書いた。これが80歳の脳みそかと何回も思った。ようやく完成。「できた!」。嬉しかった。ほっとしたというか、気が楽になった。この時の気持ち。忘れることはないであろう。9 MORINOTAYORI